旅宿の花 tadanori

※最下部に、演奏会での解説を貼っています※

 

 いまも 昔も 

 

 そのままに 

 

 佇む 花の 愛おしさ

 

 

 幾度 この身を 

 

 ふるわせて 

 

 近づいたとて 

 

 かなうまい

 

 

 

 行けども 

 

 行けども 

 

 野原 篠原 

 

 

 どこへ 向かえば 

 

 よいのやら

 

 

 

 月に せつなき 

 

 胸の うち 

 

 今宵 照らされ 

 

 すすみゆく

 

 

 武勇の 誉れ 

 

 などよりも 

 

 のちに 託した 

 

 あの 歌に

 

 

 わが名を 記して 

 

 生きた 灯と 

 

 せめて この世に 

 

 とどめたい

 

       

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 さざなみや 

 志賀の都は 

 荒れにしを 

 昔ながらの 

 山桜かな

      (…和歌引用)

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 わが 天命は 

 

 なにゆえ と 

 

 

 望まぬ 運命 

 

 誰ゆえ と

 

 

 

 二度と 言うまい 

 

 

 埒もなき 

 

 癒えぬ  問答 

 

 限りなし

 

 

 

 求めど 

 

 求めど  

 

 逃げる かげろう

 

 終わりなき 世に 

 

 救い あれ 

 

 

 

 旅の 終わりの 

 

 この 宿は 

 

 この世の 夢の 

 

 ひとしずく

 

 

 今宵の 主(あるじ)

 

 愛でながら

 

 安らぎの なか 

 

 まどろんで

 

 

 舞い散る 花に 

 

 抱かれて…

 


<曲の解説>

 幽玄世界のにじり口の初演(2017.12.22)にて

 お配りしたパンプレットの文章を、そのまま

 転載します。

 

 

幽玄世界のにじり口     2017.12.22.

 

本日は、ご来場いただき誠にありがとうございます!

今宵お届けする曲は、お能の演目を題材に創作させて

いただいた、十四篇の梅吉曲でございます。

 

お能について正式な知識もない梅吉の、個人的な感性

のみで、自由気儘に創らせていただいている楽曲であ

りますことをご了承のうえ、十四篇の世界をご堪能頂

けましたなら、幸いでございますm(_ _)m     

 

 

<旅宿の花(摂津·須磨の浦)>

一の谷の合戦で忠度を討った岡部六弥太は、はじめ、

身分の高い敵を討ちとったその相手が誰かわからず、

箙に結んであった書付を解いてみると「旅宿の花」と

いう題で、歌が一首詠まれていたそうです。

 

行き暮れて木の下陰を宿とせば花や今宵の主ならまし

 

文武両道に秀でた忠度の死を敵も味方も惜しみます。

彼の詠んだ歌を知るほどに、草花や月など自然を愛し

恋に身を焦がす様子がうかがえ、優れた武将といえど、

戦には辟易していたのでは…と勝手に感じております。

 

さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな

 

能「忠度」では、↑この歌が千載集に選ばれながら、

朝敵となったがゆえに詠み人知らずとされてしまった

無念さが忠度の霊を通して描かれており、歌人として

の名を惜しむ悔しさ、戦乱に翻弄された自らの運命の

やりきれなさが表現されています。