安達原

 

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旅の衣はすず掛けの

旅の衣はすず掛けの

露けき袖や

しをるらん

  …(謡曲より引用)

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(語り)

みちのくは 

安達原に 住むという

その 女は

本当に 人を喰らう

鬼だったのでしょうか

 

いいえ 決して

鬼などでは

なかったのです

 

あの 山伏たちが

女の閨を

覗いたりするまでは

 

 

 

(唄)

安達原の

女が 泣いている 

 

鬼に 生まれ落ちた

運命に 泣いている

 

 

人も 分け入らぬ 

陸奥の はて 

 

秋の 夜長の 

はてもなし

 

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げに 詫び人の習い程

悲しきものは よもあらじ 

かかる浮き世に 秋のきて

朝げの風は 身にしめども

胸を休むる こともなく

昨日も むなしく

暮れぬれば 

 

    …(謡曲より引用)

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女の あばら屋に 

訪ね来る 人あり 

 

一夜の宿 求め 

山伏が 戸を叩く

 

粗末な 庵に

恥じ入りながら 

 

女は 

迎え入れてやる 

 

 

なにもない あばら屋 

せめてもの もてなしと

 

求められる ままに 

糸繰り みせてやる

 

カラリ カラリと

回す 糸車 

 

我が身の 運命 

紡ぐように

 

 

心根の やさしき女は 

山へ 出る 

 

夜寒は 辛かろうと 

薪を 探しに出る

 

裳裾を ぬらす

夜露も 厭わず 

 

もてなす 心に 

灯が ともる

 

 

閨は 見てはならぬ 

それだけを 契らせ 

 

山伏を 信じて 

女は 出て来たが

 

 

人の 心に 

忍び寄るものが 

 

人の理 くもらせる

 

生き恥を 隠した 

女の 閨の奥 

 

暴いては ならない 

背負いきれぬ 宿業

 

 

人の 心に

引き裂かれながら 

 

女は 鬼に戻される

 

もはや 止められない 

女の 真心は 

 

はかなく 棄てられて 

絶望に 呑まれて

 

 

まことの 鬼の根は 

人の心 息をひそめ 

 

闇夜に 舌を出し 

誰かを 鬼に仕立てあげ 

 

己に 気づくことはない

 

そこも かしこも 

鬼だらけ 

 

そこも かしこも 

鬼だらけ

 

 

そこも 

 

かしこも… 

 

鬼…だらけ…